徒然なるままに垂れ流します。
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轟々と唸る風を、鋭い音が切り裂いた。
右耳の直ぐ側を通り過ぎた音は、その勢いのまま地面に突き立つ。
外しているのか外れているのか、先程から幾度も射掛けられる矢は、幸いにも当たってはいない。
けれど、確実に的に近付いていた。
巡礼のマントからのぞく衣服は、ひどく汚れ傷んでいても上等な布と丁寧な仕事によって仕立てられているのが分かる。
本来は晴天の下で光を弾くのだろう金の髪は、土埃でくすんで見る影も無いが、翡翠の瞳には強い力が宿っている。
広くなだらかな丘を、腰の辺りまで伸びた草をかき分けながら、青年は必死に追っ手から逃げていた。
決して捕まってなるものかと思う心と裏腹に、ろくに食事も休息もとれないこの状況に身体はもう限界が近かった。
顔に疲労を浮かべ、呼吸には喘鳴が混じる。
無心に動かす足が何処へ向かっているのかなど、最早、自身にすら分からない。
――見通しの良い所へ出たのは失敗だった。
危機的な状態にあって、どこか冷静な頭の隅でぼんやりと考える。
こうも落ち着いていられるのは、きっと恐怖心が麻痺してしまったからに違いない。
ともすれば止まりそうな足を半ば無理矢理に動かす。
大きく息を吸おうと仰いだ空は、白雲が瞬きの間に形を変えて流れていく。
このまま倒れて草葉の向こうに空を眺めるのも良いかもしれないと、一瞬脳裏を過ぎった考えに、思ったよりも追い詰められている自分を自覚する。
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