徒然なるままに垂れ流します。
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それは、もう、戻れない日々の。
まるで、
奇跡のような、存在だった。
ふと目が合う度に、静かに、とても柔らかに微笑う。
その姿が、荒んだ現実の中で、唯一と言っても良いくらいに穏やかだった。
触れたいと想っても、この、血に塗れた両手では、触れてはいけない気がして、躊躇ってばかりいた。
* * *
目が覚めると、何故か部屋の襖が開け放たれていた。
射し込む陽射しに舌打ちをする。
こうも明るくては、二度寝など出来そうもない。
襖を開けて行った奴が分かったら、とりあえず一発殴っておこうと心に決めた。
すぐ前の縁側を、洗い終えた洗濯物の山を抱えてフラフラと進む姿を、身を起こしながらぼんやりと、寝起き直後の動きの鈍い頭で眺める。
綾瀬の癖のない長い黒髪が、風に吹かれて滑らかに肩から落ちた。
その風に乗って、この場所には似つかわしくない、微かな花の香りが漂う。
少し前に、アレが土産だとやっていた香水が、今の彼女の気に入りらしい。
勿体無いと言いながら、機嫌の良い日につけては、いい香りだと笑っている。
「おい」
目にかかる鬱陶しい前髪をかきあげながら、声をかけた。
俺が起きていたのに気付いていなかったのか、一瞬、庭の方を向いてから、慌ててこちらを向きなおす。
「おはようございます。今日も良い天気ですよ」
「そうかよ」
いつものように穏やかに微笑うのを視界の端に、昨日脱ぎ散らかしたままの筈の着物を探した。
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